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  • 本田有明

教育コンサルタントの自画像 産労総合研究所『企業と人材』より抜粋

日本能率協会でマネジメントを学ぶ 


大学を卒業後、私は経営教育・コンサルティングの推進団体である日本能率協会に就職しました。大学での専攻は哲学で、「ひとりくらい変り種がいてもよいだろう」が採用の理由だったそうです。


日々の学習テーマが哲学から経営学に変わったため、当初はチンプンカンプンで、モラール(やる気)とモラル(道徳)を混同するなど、冷や汗をかいたものです。しかし日本能率協会というところは、働きながら経営の勉強ができる職場で、いろいろな意味で「学習する組織」のお手本でした。


まだ若いころ、ある著名なコンサルタントとともに「哲学勉強会」を主宰したのは、その後につながる貴重な体験でした。参加者は経営トップに限り、哲学をしっかり学ぶことで各自の経営哲学を構築しようという試みです。たとえばデカルトの『方法序説』を読んだら、それでよしとするのではなく、『私の方法序説』を執筆していただく。かなりハードな内容でしたが、経営者の方々には人気を博し、20年以上たった今でも時々、短期集中セミナーを開催しています。


日本能率協会は、昔から「がんばって働く」より「効率的に働く」ことを重視する組織でした。そこでマネジメントと経営教育について広く学び、そうしたテーマの出版物を手がけたりするうちに、人材育成コンサルタントとして独立することになりました。



哲学と実務の接点をさぐる

経営には、個別の戦略、戦術の前に理念(経営哲学)が欠かせません。コンプライアンス(法令遵守)の重要性がこれほど声高に論じられている現代においても、なお多くの企業で不祥事が続発している背景には、理念の揺らぎが透けて見えます。会社にとって公正とは何か、働く者にとって倫理とは何か。こうした問題を、まずは青臭いほど真剣に、正面から論じる必要があります。


そう考えて、私は経営幹部の勉強会ではデカルトやマルクス・アウレリウスの書物を勧め、購買担当者の研修ではカントの倫理学を基礎として学んでもらいます。対症療法としての企業倫理ではなく、いわば原点回帰の問題として扱うために。いっけん遠まわりな学習に見えて、人をつくるためには古典に学ぶことが近道と考えるからです。


こうした哲学と実務の接点を探る教育が、あえていえば私の独自性になるでしょうか。実務に打ち込むことがマズローの説く自己実現につながるような、いわば「背骨」となる思想を形成すること。それを提唱し、サポートしてゆくことが第一の使命だと考えています。


いつもこういった高尚な話ばかりしているわけではありません。日常のビジネスライフにおいて重要なのは、働き方を追求して自分の流儀をつくることです。最近の言葉でいえば「仕事の流儀」。まずは効率的に働くことの名人をめざし、最終的には自分流を築くわけですが、その具体的な方法論と楽しさを伝えることが第二の使命です。



新人の定着と育成が緊急の課題


このところ若者の早期離職が「七五三問題」として注目されるようになって、人材リテンション(定着)戦略に関する教育や講演の依頼が急増しました。コンサルタントとして年齢と経験を重ねるにつれて、対象とする人が幹部から管理職へ、中堅から若手へと、若くなってきている傾向は普通とは逆で、おもしろい現象だと思っています。


いまどきの若者に対しては、たとえば経済産業省が提唱した「社会人基礎力」に即して、必要とされる能力を現場での行動に落とし込んで具体的に教えることが、リテンションに資するひとつの方策ですが、この当たり前のことが現実には多くの会社で実行できていません。日本経団連の指針に沿って「自律型人材」なるものを標榜しながらも、それを実践的な解釈と方法論によって説明できてはいないことと軌を一にしています。


そのことに警鐘を鳴らし、社会人基礎力の取り上げ方をマネジメント雑誌の特集記事として掲載したところ、予想外の大きな反響を呼びました。今年から来年にかけては、《新人育成コンサルタント》として仕事をすることも多くなりそうです。


七五三問題に関していえば、重要なのは「いまどきの若者論」を語ることではありません。「いまどきの若者は困ったものだ」式の嘆きは、紀元前の昔から続いてきた人類最古のグチであって、たいした意味はありません。むしろ現代に特有の深刻な問題は、いまどきの若者をきちんと指導できなくなったベテランの側にあります。


背景としては、成果主義の導入による組織風土の変化、長年新人を採用してこなかったことによるOJTの未経験など、さまざまありますが、ひとことで言えば次のようになるでしょう。


「新入社員を迎えるたびに、しゃんとしなければならないのは、古参社員の方である。新人の初心を前に、粛然と襟を正すべきである。新入社員教育は、新入社員の入社ごとに、古参社員が受けるべきである」(城山三郎『猛烈社員を排す』)


新人の研修と並行して、あるいはそれ以上の危機感をもって、古参社員の側の「人を導く力」を高めなければなりません。

というわけで、もっか新人向けの社会人基礎力養成のプログラムとともに、彼ら彼女たちを育てる先輩向けの「アクション・ラーニング」を展開しています。いまどきの新人たちの行動特性をよく見極めたうえで、どのようなツーウェイ・コミュニケーションをはかっていけばよいか――いわば部下とセットで成長してゆくための新たなプログラムづくりです。ピンチをチャンスに変える取り組みといえるかもしれません。

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