人事コンサルタントとして講師業も請け負っていると、年度替わりの4月は、冬眠から覚めていきなりダッシュをするような感じで、ひと月あまりフル稼働の日々が続きます。私の年代になると、さすがに新入社員(職員)向けの講演や研修は少なく、新人を迎える側の管理職やメンターに対するものが主となります。
往年の映画『男はつらいよ』の寅さんではありませんが、トランク片手に北から南まで巡業の日々。行き先は、民間会社と自治体が半々といったところです。
県単位の研修は、各地域の「地方自治研修所」で行うことが多いのですが、1か所、おもしろい名称をもつ県があります。「佐賀県自治修習所レナセル」がそれです。
通常の研修所ではなく「修習所」であり、しかもレナセルという外国語まで付いています。同所のホームページによると、レナセルとはスペイン語で「元気を取り戻す」「元気になる」という意味だとのこと。
このレナセルで私は例年、全日のメンター研修を担当しています。新人の研修が終わった直後の4月中旬に訪問させていただくのですが、建物の通路には新人たちの集合写真と、各自の抱負を書き並べた紙が壁いっぱいに張り出されています。
研修前にここを通ると、まっさらな若者たちの初心と向き合う感じがして、講師も受講者のメンターたちも足が止まります。心を洗われ、まさに「元気を取り戻す」ひとときです。
居酒屋で会った元気な若者
地方出張の楽しみのひとつは、ご当地ならではの美味と銘酒。佐賀ではいつも前日の夜に駅前の居酒屋に赴きます。お目当ては、有明の海の幸と佐賀牛、鍋島・古伊万里・能古見などの吟醸酒です。
できれば研修を終えた日の夜にのんびりくつろいで、と思うのですが、空路の最終便が早いため、前夜にちょっとだけ。上記の3銘柄の利き酒セットと佐賀牛のステーキをいただくのが定番になっています。
数年前、店で会計をすませ外へ出たところで、「ありがとうございました!」と、びっくりするほど大きな声が。レジにいた若者が深々と頭を下げていました。
あまりに気持ちのよい挨拶だったので、「また来年も来ますよ」と声をかけたところ、「自分は来年就職なので、たぶんお会いできませんが、またのご来店をよろしくお願いします」。
私が面接官なら、そのやりとりだけで内定を出したくなるほど感じのよい若者でした。
「どんな業界が志望なの?」と聞くと、「第一志望は地元の役所です」とのこと。
彼はどこに就職が決まっただろうか、と想像しました。あの晩の笑顔は、まぶたに残っていました。春先にレナセルの通路に張り出されるはずの新人たちの写真を、しっかり見てみようと思ったしだいです。もしかして――ということも、ないとは限りません。
こんなふうにして毎年、春を待つ楽しみが増えていきます。
(日本経営協会発行『OMNI-MANAGEMENT』より転載)
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