大人向けがお子さま向けに
「なぜ児童書を書くようになったのか」という質問を、これまでに何度も受けました。人事コンサルタントとして活動してきたのに、急に小学生向けの本を刊行するようになったからです。
きっかけは、長年私のビジネス書を担当してくれていた版元の編集者が、文芸書の部門に異動したことでした。では私も文芸物に挑戦してみようかと思い立ち、ある年のゴールデンウィークに小説(らしきもの)を執筆。ドヤ顔で彼に預けました。
数週間後、「では打ち合わせを」ということで、彼は別の編集者を連れてきました。聞くと、原稿をこのままの形で採用するのではなく、主人公の過去回想の部分を切り取り、児童書として刊行したい、とのこと。同行した編集者は児童書部門の方でした。
正直なところ、がっかりしました。大人向けに書いたつもりなのに、前後を省いてお子さま向けにするのかと。「ボツ」と言われたのと同じような気分になったものです。
その本が『じっちゃ先生とふたつの花』と題して刊行されると、翌年、いくつもの地域で夏休みの読書感想文の課題図書に指定され、重版が続きました。児童書の担当者は、最初の重版の際には大いに喜び、次の重版の際には「ちょっと残念です」と表情を曇らせました。多くの地域で評価されるなら、全国コンクールの課題図書にしてほしかった、というのです。
「だったら次は、コンクールを題材にした本を書きましょうか?」――はずみで、私はそんなふうに言いました。児童書は1冊だけ、と決めていたはずなのに。
児童書を世に出す楽しさ
コンクールを題材にした本は、小学校の合唱コンクールを扱った『卒業の歌~ぼくたちの挑戦』という作品として実を結び、全国コンクールの課題図書にはならなかったものの、また版を重ねました。
こんな体験が続くうちに、児童書を世に出す楽しさを味わうようになりました。第一に、子どもたちから手紙や感想文が届いたこと。児童の感性の瑞々しさに接する機会は、自分の心が洗われる時間でした。第二に、中学校の入学試験や学習塾の模擬試験などに採用されたこと。
初版で終わる新刊書があったら、その時点でやめよう。そう思いつつ、すでに10年以上の歳月がたちました。
自慢話のようになってしまいました。
付け加えると、今この分野でいちばんうれしいことは、『願いがかなう ふしぎな日記』という既刊書が、毎年夏休みの期間アマゾンの「童話・こどもの文学」のジャンルで1位になっていることです。来年は同書シリーズの第4弾が上梓される予定です。
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